導入
教材
『ラテン語初歩』(岩波書店)の練習問題を通して、ラテン語、英語、フランス語について解説します。
ラテン語の発音方法
だいたい、ローマ字読みでOKです。
例 dominus→ドミヌス
§75.練習問題13(羅文和訳)
問1
【問題】
Injūriam vidēbās sed tacēbās.
【単語】
injūria, ae f.「不正、不法」
videō[第二活用]「見る」
sed「しかし」
taceō[第二活用]「黙る」
injūriamの活用は、対格単数で、訳は「不法を」です。
【活用表】
puella「少女」
単数
主格(が) puella
属格(の) puellae
与格(に) puellae
対格(を) puellam
奪格(から)puellā
複数
主格(が) puellae
属格(の) puellārum
与格(に) puellīs
対格(を) puellās
奪格(から)puellīs
vidēbāsとtacēbāsが今回から扱う未完了過去です。-bam以下の部分が全五活用で同じなので、代表でamōの活用表を使います。
【活用表】未完了過去(直説法能動相)
amō「愛する」
単数
1人称 amābam
2人称 amābās
3人称 amābat
複数
1人称 amābāmus
2人称 amābātis
3人称 amābant
訳は、「あなたは見ていた」「あなたは黙っていた」です。
【解答】
「あなたは不法を見ていが、しかし黙っていた。」
ラテン語のinjūriaは、英語のinjury/ˈɪndʒəri/「けが」と関係があります。不法(正しくないこと)→負傷という方向に意味が広がりました。
意味が飛躍しすぎなのでは?という気もしますが、まぁ英語学習においては、語源の知識なんて、こういうふわっとしたくらいで十分です。
問2
【問題】
Tacēbant sed clāmābant.
【単語】
clāmō[第一活用]「叫ぶ」
Tacēbantとclāmābantの活用を見ます。
【活用表】未完了過去(直説法能動相)
amō「愛する」
単数
1人称 amābam
2人称 amābās
3人称 amābat
複数
1人称 amābāmus
2人称 amābātis
3人称 amābant
複数三人称なので、主語は「彼らは」です。
【解答】
彼らは黙っていた、しかし叫んでいたのだ。

う~ん、深い!?
ラテン語のclāmoは、英語のclaim/ˈkleɪm/「主張する」と関係があり、そもそもは「大声で叫ぶ」という意味でした。現代英語では「大声」の意味は失われ、「言い張る」意味が残りっています。
【例文】
The country claimed the territory as its own.
その国はその地域を自国の領土だと主張した。
問3
【問題】
Audiēbant sed tacēbant.
【単語】
audiō[第四活用]「聞く」
活用表を見ると、主語は「彼らは」です。
【活用表】未完了過去(直説法能動相)
amō「愛する」
単数
1人称 amābam
2人称 amābās
3人称 amābat
複数
1人称 amābāmus
2人称 amābātis
3人称 amābant
【解答】
「彼らは聞いていた、しかし黙っていた。」
ラテン語のtaceōは、英語のtacit/ˈtæsət/「暗黙の」や、taciturn/ˈtæsəˌtɚn/「無口な」と関係があり、英検1級レベルです。ラテン語の勉強は英検1級の対策になるのです!
問4
【問題】
Resistēbam contrā injūriam.
【単語】
contrā「~に対して」[対格支配]
resistō「抵抗する」[第三活用]
Resistēbamとinjūriamの活用を見ると、主語は「私は」です。
【活用表】未完了過去(直説法能動相)
amō「愛する」
単数
1人称 amābam
2人称 amābās
3人称 amābat
複数
1人称 amābāmus
2人称 amābātis
3人称 amābant
【解答】
私は不正に対して抵抗していた。
ラテン語のresistōは、英語のresist/rɪˈzɪst/と関係があります。
ラテン語のcontrāは、英語のcontradict/ˌkɑːntrəˈdɪkt/「反論する」などと関係があります。
contra○○で「反○○」といった造語成分(単語をつくる部品)になります。
【例】
contraception/ˌkɑːntrəˈsepʃən/「避妊法」
contravene/ˌkɑːntrəˈviːn/「違反する」
これらも英検1級レベルです。
問5
【問題】
Ad puellam rosam cottīdiē mittēbam.
【単語】
ad「~へ」[対格支配]
puella, ae, f.「少女」
rosa, ae, f.「ばら」
cottīdiē「毎日」
mittō「送る」[第三活用]
puellamとrosamの活用をまとめて確認すると、
【活用表】
puella「少女」
単数
主格(が) puella
属格(の) puellae
与格(に) puellae
対格(を) puellam
奪格(から)puellā
複数
主格(が) puellae
属格(の) puellārum
与格(に) puellīs
対格(を) puellās
奪格(から)puellīs
どちらも単数対格です。puellamはadの支配下にあって「少女に」、rosamは普通に「ばらを」という訳でしょう。
あとはmittēbamの活用がわかれば、意味を特定できます。
【活用表】未完了過去(直説法能動相)
amō「愛する」
単数
1人称 amābam
2人称 amābās
3人称 amābat
複数
1人称 amābāmus
2人称 amābātis
3人称 amābant
主語は「私」です。
【解答】
少女にばらを、私は毎日送っていた。
ラテン語のcottīdiēは、英語のquotidian/kwoʊˈtɪdiən/「(発熱などが)毎日の」と関係があります。/k(w)o/の音は、ラテン語ではquo-で綴られたり、co-で綴られたりします。