ゆるラテン語講座 第12回 liber「本」という2000年前の単語はlibrary「図書館」という現代英語に受け継がれている【Ⅸ名詞第二活用③】

諸言語
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導入

大学教科書なのに解答が付いていない、学生泣かせの名著『ラテン語初歩』の練習問題を解きつつ、ラテン語や英語について解説します。

《発音》
ローマ字読みすれば、だいたいラテン語になります。
【例】dominus /ドミヌス/
棒が上に乗っていたら、長く読みます。
【例】dominī /ドミニー/

§83. 練習問題15-3 羅文和訳

【問題】
Discipulī librōs legēbant.
/ディスキプリー リブロース レゲーバントゥ/

【単語】
discipulus, ī, m.「生徒」(ディスキプルス)
liber, brī, m.「本」(リベル)
legō,[第三活用]「読む」(レゴー)

discipulusが第二活用(1)ですので、discipulīが何数何格なのか特定します。

【活用表】名詞第二活用(1)
 dominusドミヌス「主人」

単数
主格(が) dominusドミヌス 
属格(の) dominīドミニー
与格(に) dominōドミノー
対格(を) dominum ドミヌム
奪格(から) dominōドミノー
複数
主格(が) dominīドミニー
属格(の) dominōrumドミノールム
与格(に) dominīsドミニース
対格(を) dominōsドミノース 
奪格(から) dominīsドミニース

語尾-īは、単数属格「生徒の」または複数主格「生徒たちが」のどちらかです。ここでいったん保留にします。

次に、liberは単数属格でlibrīとeが消えるので、名詞第二活用(2)のager型ですので(§81)、agerの活用表を見ます。

名詞 第二活用(2)-2 §79
agerアゲル, grīグリー, m「耕地」
単数
主格(が) agerアゲル
属格(の) agrīアグリー
与格(に) agrōアグロー
対格(を) agrumアグルム
奪格(から) agrōアグロー
複数
主格(が) agrīアグリー
属格(の) agrōrumアグロールム
与格(に) agrīsアグリース
対格(を) agrōsアグロース
奪格(から) agrīsアグリース

語尾のlibrōsは複数対格「本[複数]を」でした。

次に、legēbantですが、-bantというのは未完了過去でして、語尾は全動詞活用で共通なので代表でamōの表を見ます。

【活用表】未完了過去(直能§70)
 amō「愛する」
単数
1人称 amābamアマーバム
2人称 amābāsアマーバース
3人称 amābatアマーバトゥ
複数
1人称 amābāmusアマーバームス
2人称 amābātisアマーバーティス
3人称 amābantアマーバントゥ

-bantで終わるのは、複数3人称でした。

ここまでの成果を並べると、

「生徒の・生徒たちが」「本[複数]を」「彼らは読んでいた」。

となります。「本を」が対格と決まっているので、「生徒」を主格にしましょう。すると「彼らは読んでいた」の彼らは、「生徒たち」になります。

生徒の・生徒たちが」「本[複数]を」「彼ら生徒たちは読んでいた」。

【解答】
生徒たちが本を読んでいた。

本は複数ですが日本語には訳出しません。「△複数の本を読んでいた」とか「?本々を読んでいた」などともできますが、やはり不自然な日本語になってしまいます。しかし日本語では複数形にしにくいものでも、ラテン語や英語では簡単に複数形にできるのだと認識しておきましょう。この違いを感じられるのが外国語学習の面白いところです。

§84. 練習問題16-3 和文羅訳

【問題】
少年が本[単数]を読んでいる。

【単語】
puer, erī, m.「生徒」(プエル)
liber, brī, m.「本」(リベル)
legō,[第三活用]「読む」(レゴー)

まず、「少年が」は単数主格なので、辞書形のpuerをこのまま使います。

次に、「本」を単数対格にするのでliberを変形させますが、見るのはagerの表です。

名詞 第二活用(2)-2 §79
agerアゲル, grīグリー, m「耕地」
単数
主格(が) agerアゲル
属格(の) agrīアグリー
与格(に) agrōアグロー
対格(を) agrumアグルム
奪格(から) agrōアグロー
複数
主格(が) agrīアグリー
属格(の) agrōrumアグロールム
与格(に) agrīsアグリース
対格(を) agrōsアグロース
奪格(から) agrīsアグリース

-rumで終わるので、librumとします。

次に「読んでいる」なので、現在形で第三活用を参考に、legōを単数三人称に変形します。

【活用表】現在直説法能動相
 第三活用 emōエモー「買う」
単数
1人称 emōエモー 
2人称 emisエミス 
3人称 emitエミトゥ 
複数
1人称 emimusエミムス 
2人称 emitisエミティス 
3人称 emuntエムントゥ 

legō→legitにします。

【解答】
Puer librum legit.
/プエル リブルム レギトゥ /

英語の語源コーナー!

今回出たラテン語も、もちろん英語になっています。

【ラテン語→英語】
discipulus「生徒」→discipline「しつけ」
liber「本」→library「図書館」
legō「読む」(目的分詞lēctum)→lecture「講義」
puer「少年」→puerile「幼稚な」※激難単語!

『ジーニアス英和辞典第6版』には、ときどき「原義」というのが載っています。その単語のもともとの意味ということです。そして原義というのはラテン語に遡ることが多いです。いくつか例を見てみましょう。

discipline
【原義:学び取る者→弟子】

library
【原義:本(libr)に関する場所(ary)】

lecture
【原義:読む(lect)こと(ure). cf. lesson】

(『ジーニアス英和辞典第6版』より)

このようにラテン語は現代の英語に多大な影響を与えているのです。

discipline/ˈdɪsəplən/という英単語は、scの部分を/s/としか発音しません。
一方でラテン語ではdiscipulus/ディスキプルス/のように、s=/s/・c=/k/と別々に発音します。
英語のdisciplineの綴りが分からなくなったら、ラテン語のdiscipulusを思いだしましょう!

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