【「言語学」と「語学」の食い違い】英語学習における言語学の使い方【音声学&音韻論】

英語の解説

導入

まずは、言語学の入門書から引用します。

音韻レベルで音を捉えるということは、まずは「わかってもらう発音」になることなのである。
しかし、「うまい発音」を目指そうと思ったら、音声レベルで訓練をする必要がある。

(『はじめての言語学』 講談社現代新書 kindle版 位置1217)

この一節を理解できると、着実に英会話が通じるようになっていきます。さらにがんばればネイティブ発音が身に付きます。では解説していきます。

【前提】語学≠言語学→😭

「勘違い」あるある

よく勘違いされるのですが、言語学(=研究分野)と語学(=外国語の勉強)は全然違います。例えば外語大に入学して、言語学の研究室(いわゆるゼミ)に入ったとしても、外国語は上達しません!マジで!!

なんなら外国語の発音練習ばかりしていたら「発音練習ばかりしてないで論文書け!」と怒られます。なんでやねん。

発音練習禁止の図

言語学者≠外国語ペラペラ

そう、研究者とは論文を書くのが上手な人であり、必ずしも英語学者が英語ペラペラでネイティブ発音だとは限りません!!

残念ながら学生も同じこと。いくら外国語がペラペラになっても、卒業論文を書かないと大学を卒業できません。

語学ばっかりやっていた外大生は、学年末に泣きながら論文を書くハメになります。(私です)

泣きながら論文を書いてもう頭がぱっぱらぱ~の図

研究ってこんな感じ

例えば、私が属していた音声学研究室では、言語の発音を録音して音の波形とひたすらにらめっこしていました。分析画面はこんな感じ↓

praatの分析画面

音の波の形を見ながら、

スペクトログラム(←覚えなくていい)では第一フォルマント(←覚えなくていい)がああで、こうで・・・

などと、ひたすら考え事をします。でも、そんなことしてても外国語が喋れるようになんかなりません!!言語の研究をしても外国語が上達しないというイメージを少しは感じていただけたでしょうか。

言語学は語学のほんの隠し味に

とはいえ、言語学の研究成果の中には、外国語学習に使えそうな知識もあるにはあります。言語学の基礎中の基礎の部分にちょっと触れることで、語学学習の効率がぐっと高くなると言えるでしょう。ただし、深入りは禁物で、あくまでも外国語学習の「隠し味」くらいで控えめに考えておきましょう。

音素【初級編】

音素とは何か

音素おんそとは、英語学習においては「発音記号」と考えてください。

【ポイント】
音素=発音記号である。
(※超絶ざっくり解説なので言語学者の先生には言わないでくださいね!)

発音記号(音素)で大切なのは、違いを生み出すという機能です。

「違い」とは

例えば、英語の/b/と/v/という発音記号だと、ぶっちゃけ日本人にはどっちも「バ」に聞こえますよね。でも、アメリカ人には/b/と/v/は全然違う音に聞こえてます!

これは、日本人の頭の中には/b/の発音記号しかないけど、アメリカ人の頭の中には/b/と/v/の両方の発音記号があるから起きる現象です。

頭の中にある発音記号が違うの図
なお、本文ではわかりやすく「日本人」「アメリカ人」と表記していますが、正確には「日本語母語話者」「英語母語話者」であることをご承知おきください。

このように、日本語だと同じ音に聞こえるけど、英語だと別の音であるときに、特に注意を払う必要があります。言い換えると、日本語だと同じ音素だけど英語だと別の音素であるとき、その音素を聞き分けたり、自分で発音し分ける方法をがんばって練習する必要があるのです。

逆もあるよ^^

なお、日本人には全然別の音なのに、アメリカ人には同じに聞こえる発音もあります。例えば、伸ばす棒「ー」の音はアメリカ人には聞こえません。だから「てください」「聞いきーてください」はアメリカ人には同じに聞こえてます。ざまぁ!

ですので、アメリカ人が日本語を勉強するときは、「き」と「きー」の違いをがんばって練習することになります。それこそ日本人にとっての/b/と/v/と同じことです。

音素レベルができればOK

このように、音素とはある言語において「違いを生み出す」機能があります。言い換えると「発音記号が違うと発音が違う」という当たり前のことですね。

「英語にとっての違う音」を違うように発音&聞き取りできれば、ひとまず英語学習は合格ラインです!例えば/b//v/を違う音で発音&聞き取りができれば、言語学的な観点から見て英会話ができるってことになります。

音声【上級編!】

⚠️激ムズ注意⚠️
ここからは難しいので本格的にネイティブ発音を目指したい方だけ読み進めてください。

音素 vs 音声

音素とは発音記号のことでした。例えばcarという単語の発音記号は/ˈkɑr/です。次に、実際の音声を書き出してみると、こんな感じになります↓

〈car〉の音声

ふぁっ!?!?意味が分からん!

順を追って解説します。

【記述の凡例】
綴り→〈〉で囲む
音素→//で囲む(←辞書とかの発音記号はこれ)
音声→[]で囲む

【例】
綴り→〈car〉(←英単語を書く時のやつ!)
音素→/ˈkɑr/(←一般的な発音記号ね!)
音声→[ˈkʰɑ̟ɚ̯ʷˤ]

教科書や辞書に載っている一般的な発音記号(≒音素)は、区別に必要な最低限の情報だけ載せています。だから/ˈkɑr/は比較的シンプルな表記です。

一方で音声表記の[ˈkʰɑ̟ɚ̯ʷˤ]はネイティブ発音に必要な情報をもりもりに盛り込んだ表記で、複雑な表記になってしまいます。

[kʰ]

発音記号/ˈkɑr/からネイティブ音声[ˈkʰɑ̟ɚ̯ʷˤ]を導くには、色々と手続きが必要です。

【英語における発音のルール】
英語は無声破裂音に強母音が後続すると、破裂音は有気音になる。
/k/→[kʰ]/_[強母音]

今回は/ˈr/と/k/にきょうアクセントがある母音(強い母音)が続いているので、/k/を有気音[kʰ]として実現させます。

有気音とは、息多めで/k/の後にうっすら/h/の音がちょっと入ったように「かはあ」みたいに発音することです。

♪[ka]→[kʰa]

些細な違いですが、こういうのが積み重なってネイティブ発音になっていきます。

[ɑ̟ɚ̯ʷˤ]をざっくりと

〈car〉の音声の後半ですが、これはルールというより丸暗記です。詳しくは別の記事で扱いますので、今はごく簡単にポイントだけ書いておきます。

①[ɑ̟]→後舌低母音を作り、下の「+」は「ちょい前」の指示なので、舌をちょい前進させる。
②[ɑ̟]から[ə]に向かう。
③[ə]に到達するまでの間に、舌を/r/の構え(ɚ̯)にしつつ、同時に唇を少し丸めて行き(円唇化(ʷ))、喉を「おぇっ」っとする感じに少し締め付ける(咽頭化(ˤ))。

①~③の図解

繰り返しますが、上記①~③については別途記事にしますので、今は分からないのが普通です。とりあえず電子辞書などの発音をまねるだけでも十分です。

①②③それぞれだけで記事一本分の量になってしまうくらい難しいです。これらが一発で理解できた人はぜひ言語学者になってください🙇

まとめ

以上を踏まえ、冒頭の引用を超訳すると以下のようになります。

発音記号(音素)/ˈkɑr/ができるなら通じる!
ネイティブ発音目指すなら音声[ˈkʰɑ̟ɚ̯ʷˤ]もね!!

少しでも理解が深めていただけたら幸いです。

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