導入
英語にはたくさんのラテン語があり、ちょうど日本語に漢字がたくさんあるのに似ています。現代にも影響力を持っているラテン語に、ゆるく入門してみましょう。
大学教科書なのに解答が付いていない、学生泣かせの名著『ラテン語初歩』の練習問題を解きつつ、ラテン語や英語について解説します。
《発音》
ローマ字読みすれば、だいたいラテン語になります。
【例】dominus /ドミヌス/
棒が上に乗っていたら、長く読みます。
【例】dominī /ドミニー/
§90. 練習問題17-2 羅文和訳
【問題】
Dominus servum nigrum laudat.
ドミヌス セルヴム ニグルム ラウダトゥ
【単語】
servus, ī, m.「奴隷」/セルウウス/
niger, gra, grum「黒い」/ニゲル/
dominus, ī, m.「主人」/ドミヌス/
laudō[第一活用]「ほめる」/ラウドー/
先読みすると、servum・nigrum、と対格風味な語尾が続いているので、Dominusは素直に単数主格「主人が」としておきましょう。
servumとnigrumは性数格が一致しているようなので、一気に見ます。
名詞第二活用(1-1)(§51)
dominus「主人」
単数
主格(が) dominus
属格(の) dominī
与格(に) dominō
対格(を) dominum
奪格(から) dominō
複数
主格(が) dominī
属格(の) dominōrum
与格(に) dominīs
対格(を) dominōs
奪格(から) dominīs
単数対格なので、servum nigrumで「色の黒い奴隷を」です。
laudatは現在形の語尾ですが、一応確認します。
現在直接法能動相(第一活用)
§25. amō「愛する」
単数
1人称 amō
2人称 amās
3人称 amat
複数
1人称 amāmus
2人称 amātis
3人称 amant
単数3人称なので「(彼=主人が)ほめる/ほめている」です。
復習(§28)
ラテン語の現在形は「~する(現在の習慣)」から「~している(進行中)」までカバーするので、単体ならどちらの訳でもOKです。英語で言えば現在形と現在進行形が合体した具合です。
( 【ラテン語たちのアスペクト】
日本語や英語には現在形(する・do)と現在進行形(している・be doing)の区別がありますね。しかしラテン語の子孫であるフランス語にも現在進行形にあたる表現は無く、現在形を使って進行中の出来事も表します。
【日】そこで何しているんですか?
【英】What are you doing there?
【仏】Qu’est-ce que faites là?/ケスク フェットゥ ラ/
(仏例文出典『これならわかるフランス語文法』NHK出版 p193)
このように現代の言語でも現在形と現在進行形を語形で区別しない言語があるのだな~と鑑賞してください。
解答
【解答】
主人が色の黒い奴隷をほめている。
英語語源コーナー!
今回使ったlaudō「ほめる」というラテン語は、以下の英語と関係があります。
laud/lɑːd/「賞賛する」
laud the benefits of the globalization
グローバリゼーションがもたらす恩恵を賛美する
laudable/ˈlɑːdəbl/「賞賛に値する」
a laudable painter
素晴らしい画家
laudatory/ˈlɑːdəˌtɔːri/「賞賛の」
laudatory biography
絶賛調の伝記
ラテン語では「ほめる」くらいだったニュアンスが、英語では「賞賛、賛美」など形式ばった上品なニュアンスになっています。
このように基本のラテン語を学ぶことで、英語1級程度の最上級英単語を学ぶことができます。