導入
大学教科書なのに解答が付いていない、学生泣かせの名著『ラテン語初歩』の練習問題を解きつつ、ラテン語や英語について解説します。
《発音》
ローマ字読みすれば、だいたいラテン語になります。
【例】dominus /ドミヌス/
棒が上に乗っていたら、長く読みます。
【例】dominī /ドミニー/
§83. 練習問題15-3 羅文和訳
【問題】
Discipulī librōs legēbant.
/ディスキプリー リブロース レゲーバントゥ/
【単語】
discipulus, ī, m.「生徒」(ディスキプルス)
liber, brī, m.「本」(リベル)
legō,[第三活用]「読む」(レゴー)
discipulusが第二活用(1)ですので、discipulīが何数何格なのか特定します。
【活用表】名詞第二活用(1)
dominus「主人」
単数
主格(が) dominus
属格(の) dominī
与格(に) dominō
対格(を) dominum
奪格(から) dominō
複数
主格(が) dominī
属格(の) dominōrum
与格(に) dominīs
対格(を) dominōs
奪格(から) dominīs
語尾-īは、単数属格「生徒の」または複数主格「生徒たちが」のどちらかです。ここでいったん保留にします。
次に、liberは単数属格でlibrīとeが消えるので、名詞第二活用(2)のager型ですので(§81)、agerの活用表を見ます。
名詞 第二活用(2)-2 §79
ager, grī, m「耕地」
単数
主格(が) ager
属格(の) agrī
与格(に) agrō
対格(を) agrum
奪格(から) agrō
複数
主格(が) agrī
属格(の) agrōrum
与格(に) agrīs
対格(を) agrōs
奪格(から) agrīs
語尾のlibrōsは複数対格「本[複数]を」でした。
次に、legēbantですが、-bantというのは未完了過去でして、語尾は全動詞活用で共通なので代表でamōの表を見ます。
【活用表】未完了過去(直能§70)
amō「愛する」
単数
1人称 amābam
2人称 amābās
3人称 amābat
複数
1人称 amābāmus
2人称 amābātis
3人称 amābant
-bantで終わるのは、複数3人称でした。
ここまでの成果を並べると、
「生徒の・生徒たちが」「本[複数]を」「彼らは読んでいた」。
となります。「本を」が対格と決まっているので、「生徒」を主格にしましょう。すると「彼らは読んでいた」の彼らは、「生徒たち」になります。
「生徒の・生徒たちが」「本[複数]を」「彼ら生徒たちは読んでいた」。
【解答】
生徒たちが本を読んでいた。
本は複数ですが日本語には訳出しません。「△複数の本を読んでいた」とか「?本々を読んでいた」などともできますが、やはり不自然な日本語になってしまいます。しかし日本語では複数形にしにくいものでも、ラテン語や英語では簡単に複数形にできるのだと認識しておきましょう。この違いを感じられるのが外国語学習の面白いところです。
§84. 練習問題16-3 和文羅訳
【問題】
少年が本[単数]を読んでいる。
【単語】
puer, erī, m.「生徒」(プエル)
liber, brī, m.「本」(リベル)
legō,[第三活用]「読む」(レゴー)
まず、「少年が」は単数主格なので、辞書形のpuerをこのまま使います。
次に、「本」を単数対格にするのでliberを変形させますが、見るのはagerの表です。
名詞 第二活用(2)-2 §79
ager, grī, m「耕地」
単数
主格(が) ager
属格(の) agrī
与格(に) agrō
対格(を) agrum
奪格(から) agrō
複数
主格(が) agrī
属格(の) agrōrum
与格(に) agrīs
対格(を) agrōs
奪格(から) agrīs
-rumで終わるので、librumとします。
次に「読んでいる」なので、現在形で第三活用を参考に、legōを単数三人称に変形します。
【活用表】現在直説法能動相
第三活用 emō「買う」
単数
1人称 emō
2人称 emis
3人称 emit
複数
1人称 emimus
2人称 emitis
3人称 emunt
legō→legitにします。
【解答】
Puer librum legit.
/プエル リブルム レギトゥ /
英語の語源コーナー!
今回出たラテン語も、もちろん英語になっています。
【ラテン語→英語】
discipulus「生徒」→discipline「しつけ」
liber「本」→library「図書館」
legō「読む」(目的分詞lēctum)→lecture「講義」
puer「少年」→puerile「幼稚な」※激難単語!
『ジーニアス英和辞典第6版』には、ときどき「原義」というのが載っています。その単語のもともとの意味ということです。そして原義というのはラテン語に遡ることが多いです。いくつか例を見てみましょう。
discipline
【原義:学び取る者→弟子】
library
【原義:本(libr)に関する場所(ary)】
lecture
【原義:読む(lect)こと(ure). cf. lesson】
(『ジーニアス英和辞典第6版』より)
このようにラテン語は現代の英語に多大な影響を与えているのです。
discipline/ˈdɪsəplən/という英単語は、scの部分を/s/としか発音しません。
一方でラテン語ではdiscipulus/ディスキプルス/のように、s=/s/・c=/k/と別々に発音します。
英語のdisciplineの綴りが分からなくなったら、ラテン語のdiscipulusを思いだしましょう!