本当に「あいうえお」だけで英語が話せるの?【あいうえおフォニックス】【本紹介】

英語の解説

導入

結論:とても良い本

今回扱う本は、

『あいうえおフォニックス 英語の母音をひらがな5つで完全攻略!』(角川書店単行本)
(以下『あいうえおフォニックス』と書く)

です。

発音初心者にとっては、とても有益な本です。「おすすめの発音本は?」と聞かれたら、初心者にはこれをオススメします。あいうえおを中心とした説明で、ある程度は英語が話せるようになるとも考えます。

ただし、簡単に表現しようとするあまり、重要な説明を省いている部分もあるので、そのあたりを言語学に照らして論じていきます。

この本の試み

英語の発音って難しいです。発音記号を見てもさっぱり分からん、という人が多いと思います。そこで、発音記号ではなく、日本語のひらがなを使って、英語の発音を攻略しよう!という試みが『あいうえおフォニックス』(角川書店)です。

やはり無理が生じている

とはいえ英語には、ひらがなでは表せない音が沢山あります。だからこそ発音記号に存在意義があります。

やはり、ひらがなだけの説明では構造的に無理が生じています。

『あいうえおフォニックス』p8より

「あ(ー)」だけで8個も説明すべき音があります。

『あいうえおフォニックス』では、綴りとの兼ね合いで8個を立項していますが、厳密には/æ/, /ʌ/, /ɑɚ/, /ɚ/の4種類を「あ(ー)」だけで区別します。いや、4つでも多いけど!!

「あ」による説明と功罪

2つの「あ」に大別

『あいうえおフォニックス』では、

①あかるい「あ」
②くらい「あ」

の2つに「あ」を大別しています。

台形の上下=あごの開閉
この台形に見かたの詳細は、別途記事にしますので、今はざっくりイメージだけでOKです。

言語学的にな観点からは、

より口を広い(open)/æ/と/ɑ(ɚ)/→あかるい「あ」
より口が狭い(mid-open)/ʌ/と/ɚ/→くらい「あ」

と整理できます。

4つある「あ」っぽい音をまず2つに分割できたことが、「あかるい」「くらい」という説明の功績と言えるでしょう。

説明できていない点

言語学的には、母音は次の3つの基準によって分類されます。

①舌のどの部分が上がるか
②舌がどの高さまで上がるか
③唇が丸くなるか、ならないか
(『初級英語音声学』大修館書店 p65)

『あいうえおフォニックス』では、あかるい「あ」と、くらい「あ」の違いを、次のように表しています。

『あいうえおフォニックス』p26

口を大きく開けるという指示で、「②舌がどの高さまで上がるか」はある程度指示できます。
さらに「口角を上げる=唇が丸まらない」ことなので、「③唇が丸くなるか、ならないか」も指示できています。

問題は「①舌のどの部分が上がるか」という指示が、『あいうえおフォニックス』では全くできていない点にあります。

舌の位置を指示していない

言語学的には、

あかるい「あ」こと/æ/は、より舌が前寄り(front vowel)
くらい「あ」こと/ʌ/は、より舌が後ろ寄り(back vowel)

です。

前後(言及されていない)

この前後の関係を明示しないと、十分に伝わる発音になりません。

ただ、「舌の前後」を認識して、コントロールするにはある程度訓練が必要です。そこで説明の都合上、まるっと省略してしまうのも合理的と言えるので、一概に「説明がないからダメだ」とも言えません。

弱点を補う言及

この弱点を補うために、『あいうえおフォニックス』では、音の長さに言及しています。

『あいうえおフォニックス』p27より

たしかに、『初級英語音声学』(大修館書店)でも、

/æ/はより長く、/ʌ/はより短い

という言及があり、言語学的にも合理的な説明と言えます。

この後も本は続きますが、すべて検討すると量が膨大になるため、ここまでにします。

おわりに

言語学的に非常に重要な「舌の前後」に言及がないなど、絶妙に痒い所に手が届かない所もあり、これ一冊では行き詰ってしまう可能性は確かにあります。

それでも、綴り字でer=ir=ur=/ɚ/など、発音やフォニックスの重要なテーマの大枠は把握できるので、総じて優良な発音本だと私は考えます。

日本語の「あいうえお」から微調整して、英語の母音を習得するという方法も、私は賛成です。

『あいうえおフォニックス』、ぜひお手に取ってみてください。

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