ハイレベル!大学で英語の発音を勉強したい人向けの本【英語の発音と綴り】

英語の解説

ゆるいフォニックス本かと思った

本格的な発音本

『英語の発音と綴り』という本を読みました。本の帯や、本の中にもかわいい挿絵があるので、てっきり簡単めな内容かと思っていました。全然違いましたけど。

本の帯より

ゆるいフォニックスとは?

アメリカでのフォニックス教育は、日本でいう「あいうえお」の勉強に近いです。基本的には子供向けの教材だったり、子供向けの教え方だったりします。

【イメージ】
cは「カッ」、aは「あ」、tは「トゥ」、合わせてキャットゥですね~^^

近年は日本人の大人向けにフォニックスの本が出てたりしますが、まぁ内容は似たようなもんです。

こういう、サクサク読める感じかな、と思ったら全然違って、ものすごい情報量と複雑さで頭が爆発するかと思いました。

始まる前から伝わるガチ感

本文が始まる前の、説明の部分から引用します。

説明では以下の略を用います。
e.g.ラテン語exempli gratiaの略で,例を示すときに用います。
cf. ラテン語conferの略で,「参照せよ,比較せよ」などを意味します。

音声表記には[ ],音素表記には/ /を用います。

ラテン語の説明から始まるのはガチ

本当に専門家向けの本だったら、何に断りもなく、いきなりe.g.とかcf.とか書いてあるかもしれません。その意味では、ラテン語から説明してくれているだけ、まだ親切なのかもしれません。それでも、「これからガチな話をしますよ^^」という気配をひしひしと感じます!

「ラテン語と英語」の関係というのは、「漢文と日本語」の関係に似ています。日本語でも、専門的な用語は漢字だったりしますよね。それなりにおカタい本だと、「たとえば~」じゃなくて「例~」と書いたり、「見てください」じゃなくて「参照」とか書いてあると思います。

それと同じで英語では、「for example」 の代わりにe.g.を使ったり、「look at」の代わりにcf.を使ったりして、ラテン語を用いることでおカタい感じ、ガチな感じがにじみ出ます。

一方で、「for example」省略してe.x.と書く学校の先生とかいるけど、ラテン語のe.g.に比べれば格下の語学力なのかな?と穿った見方をしてしまいます。みんなはしないようにしましょう。とはいえ、それほどまでにラテン語の影響は日本の書籍にもこうやって浸食しているので、無視できるものでなはないでしょう。

[音声表記]と/音素表記/を分けるのはガチ

引用句後半を再引用すると、

音声表記には[ ],音素表記には/ /を用います。

とのこと。この[]と//を使い分ける本は、間違いなくガチで音の説明をしようとしている本です。

音素表記とは、/kæt/みたいに、発音記号だと考えて大丈夫です。これは覚えておくと便利です。

こちらは覚えなくても良いですが、音声表記とは、もっと情報量を増やした発音記号で、ネイティブ発音を表現すると厳密にはこうなるよね、ってっ記号です。[kʰæˑt̚]みたいな。

/kæt/も[kʰæˑt̚]もcat「猫」の発音を表しているだけです。

しかし、/kæt/だと、最低限通じる英語にはなるけど、簡単な分だけ、ネイティブっぽさは出せないかもしれません。

しかし[kʰæˑt̚]と書くと、「kのときは息を多めに吐く」「æはちょっと長めに発音する」「最後のtは聞こえないくらいにしかトゥの音を言わない」など、ネイティブ発音に近づく情報が満載です。ただしむずかしい

ふつうは音素表記のみ

じゃあ、英語の教科書や辞書にはどっちが載っているのかというと、簡単な音素表記/kæt/の方です。ネイティブっぽさはさておき、最低限通じる発音を目指そうという教育方針なわけです。

『英語の発音と綴り』に戻ると、ふつうは音素表記//だけのところを、実際の発音はこうであると示すために音声表記[]を持ち出すのは、本気で音の話をしようとしている予兆です。

もうこれだけで、「あ、この本は絶対に難しいぞ」とひしひしと感じます。実際、本文では大学院レベルの難し~い理論が展開されます。高校生~大学2年生くらいには難しすぎる内容です。

ちょっと味見

ここからは、この本の理論から、英語の勉強に即戦力で使えそうなものを、ほんのすこ~しだけこ紹介します。どれも難しい話なので、なるべく簡単なテーマをさらに簡単に魔改造してお届けします。

進行形 swimming

英単語を-ing形にするとき、いくつかパターンがありました。

①そのままくっつける
play>playing

↑これはまあわかる。そのまま-ingをくっ付けるんですから。

②eを取って、くっつける
take>taking

↑これからちょっと怪しくなります。読まないeなので、なくても良いのが分かる気もします。でも、なんでeを取らなきゃいけないのか。*takeingじゃダメなのか。

③子音を増やしてくっつける
swim>swimming

↑これは全然わかりません。なぜわざわざmmを重ねるのか?意地悪なのか、日本人に何か恨みでもあるのか!?

発想の転換

逆に考えましょう。「文字があるから、そう読む」ではなく「読ませたい音があるから、文字が変になる」と考えるのです。『英語の綴りと発音』で直接言われてるわけではありあせんが、本を発信されているメッセージはこうだと私は考えます。次項からみて行きましょう。

英語の母音、長音と短音

英語の母音には、長音ちょうおん短音たんおんと呼ばれるものがあります。

以降は、綴り字は〈〉で囲み、発音は//で囲みます、[]は使いません。

〈a〉という文字の音は、

【長音】〈ā〉→/eɪ/(エイ)
【短音】〈ă〉→/æ/(ア)

です。綴り字の上に棒(ā)とかお椀(ă)を載せて、綴り字でも長短を区別できます。

〈i〉という文字なら、

【長音】〈ī〉→/aɪ/(エイ)
【短音】〈ĭ〉→/ɪ/(ア)

です。

では、②takeを長短を付けてみると、

tāke

となります。最後のeは「サイレントeイー」などと呼ばれ、e本体は発音しないけど、直前の母音字を見かけ上開音節かいおんせつにすることで、母音を長くする役目があります。開音節とは、母音でおわる音節のことです。音節とは、音/文字のまとまりのことです。音節で分けてみると、

tā・ke

このようになり、tāの部分か開音節です。

もしも、最後のeがないと、音節が

*tak

のように一音節で、閉音節へいおんせつになります。閉音節とは、子音で終わる音節のことです。閉音節には、長音と短音のどちらも来れるのですが、通常は〈tăk〉/tæk/(タック)などと読まれるでしょう。確実に〈tāke〉/teɪk/と読ませるために、最後のeが必要です。

さて、〈take〉が-ing形になると〈taking〉です。音節で分けると、

〈tā・king〉

となります。〈-ing〉の〈i〉が、〈k〉にくっついて、結果、tāが開音節になるので、やはり確実に/eɪ/(エイ)と読ませることができます。(i)があるから、音節を作るためだけに置いてあった〈e〉は不要なのです。だから〈e〉は削除してから-ing形にします。

だったら別に*takeingでも理屈の上では問題無いはずですが、そこは綴りの歴史の中で、無駄なものが省かれたとでも考えておきましょう。これ以上は考えても仕方がない領域です。

次にswimですが、

〈swĭm〉

のように、そもそも母音が短音です。で、「短音は(綴り字上の)閉音節にのみ現れる」というルールがあります。

ですので、このまま-ingを付けると、

swĭ・ming〉→〈swī・ming〉

〈swi-〉が開音節になってしまい、長音で読むことになるので、

*〈swī・ming〉/swaɪmɪŋ/(スワイミング)

という謎の発音になってしまいます。

ですから、仕方がないので、もともと使っていたmを一個足して、

〈swĭm・ming〉/swɪmɪŋ/(スイミング)

これで、〈swim〉という閉音節が保たれるので、正しい発音ができます。

同じルールが、下記にもあてはまります。

rŭnning
sĭtting
gĕtting
plănning
begĭnning

おわりに

いかがでしょう。たった一文字があるか、ないか、の説明にかなりの長くかかりました。これでもかなり『英語の綴りと発音』の濃度を薄めて、ちょっとだけ味見しただけです。実際はこの100倍の濃度と100倍の分量で1万倍読むのが大変だと思ってください。

英語音声学の教科書としても通用するくらいの内容ですので、大学で音声の勉強をしたい方や、音声学ってどんな学問?って興味をお持ちの方にはオススメの一冊です!

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