導入
練習問題の解答が載っていない、悲しき(?)名著『ラテン語初歩』(岩波書店)の問題を使って、ラテン語を解説します。あわせて現代の英語で使える知識も紹介します。
今回は§41練習問題5、§42練習問題6、を扱います。
§41.練習問題5-1
問題
和訳です。
【問題文】
Puella stat et rīdet.
【単語】
stō「立つ」
rīdeō「笑う」
この文を解読していきましょう!
解答&解説
さて、英語では「てにをは」を語順で表しました☟
【英語】
Tom likes Emmy.
「トムはエミーが好き。」
順番を入れ替えると、「てにをは」が変わります☟
【英語】
Emmy likes Tom.
「エミーはトムが好き。」
で、日本語は、名詞に「てにをは」をくっ付けるので、順番が入れ替わっても、あまり意味は変わりません。
【日本語】トムはエミーが好き。
【日本語】エミーが好き、トムは。
じゃあ、ラテン語は?
ラテン語は語尾を変形させて「てにをは」を区別します。
こんな感じ↓
【活用表】
puella「少女」
単数
主格(が) puella
属格(の) puellae
与格(に) puellae
対格(を) puellam
奪格(から)puellā
複数
主格(が) puellae
属格(の) puellārum
与格(に) puellīs
対格(を) puellās
奪格(から)puellīs
つ・ま・り、「プエッラ、プエッラエ、プエッラエ、、、」と活用表の全部丸暗記です😭
これがラテン語の厳しい部分です!!!
が、この記事では毎回活用表を出しますので安心してください。
問題文にもどりましょう。
【問題文】
Puella stat et rīdet.
まずは「puella」という形を、活用表から探しましょう!
すると、、、
【活用表】
puella「少女」
単数
主格(が) puella ☜これ!
属格(の) puellae
与格(に) puellae
対格(を) puellam
奪格(から)puellā
複数
主格(が) puellae
属格(の) puellārum
与格(に) puellīs
対格(を) puellās
奪格(から)puellīs
単数主格なので、「puella」の意味は「少女が」だとわかりました。
次に「stat」です。これはstō「立つ」の活用形です。活用表から探しましょう。
【活用表】現在直接法能動相
第一活用 amō「愛する」
単数
1人称 amō (I love)
2人称 amās(You love)
3人称 amat (He loves)☜これ!
複数
1人称 amāmus (We love)
2人称 amātis (You all love)
3人称 amant (They love)
「stat」が単数3人称だとわかりました。
英語だと「三人称単数現在」略して「三単現」ってやつにあたります。
【英語】三単現の例
He likes her.
She likes him.
Tom likes Emmy.
こんな感じで、動詞にsが付くやつでした。主語はheとかsheとかの代名詞、あとTomみたいに、「私」「あなた」以外の人とか物が主語になれます。
ラテン語も同じで、puellaがstatの主語になってOKです。「puella stat」となって「少女が立っている」です。ちなみにラテン語の現在形は、英語で言う「現在形」から「進行形」まで両方の意味になるので、「~ている」という訳でOKです(§28)。
次は「rīdet」です。rīdeō「笑う」のナンカの活用形です。活用表から探しましょう。
【活用表】現在直接法能動相
第二活用 moneō「警告する」
単数
1人称 moneō (I warn)
2人称 monēs (You warn)
3人称 monet (He warn)☜これ!
複数
1人称 monēmus (We warn)
2人称 monētis (You all warn)
3人称 monent (They warn)
「rīdet」も単数3人称でした。これも主語はpuellaでOKなので、「少女が笑っている」という意味です。
etですが、これは英語でいうandだと思ってください。
今までの話をまとめると、
Puella stat et rīdat.
↓
【解答】
「少女が立って笑っている」
となります。
《おまけ情報》
ラテン語ではrīdeōは、笑う→おかしい→ばかげている、意味が変化して英語ではridiculousになりました。ラテン語初級のrīdeōを覚えておけば、「英語で、あれ?綴りは*rediculousだっけ?ridiculous」だっけ?と迷うことは無くなりますね!
《おまけ情報》
『ジーニアス英和辞典第6版』でstationを引くと、
【原義:原義:立っている(stat)こと(ion)→立っている所, とどまる所】
と出て来ます。
ラテン語が由来になっているのですが、今回の問題で実際のラテン語でstō→stat「立っている」になるのだと確認できましたね、感動!
ずんずん進めて行きましょう!
§41.練習問題5-2
問題
和訳しなさい。
Puellam amō.
解答&解説
Puellamの活用形を特定しましょう。
【活用表】
puella「少女」
単数
主格(が) puella
属格(の) puellae
与格(に) puellae
対格(を) puellam ☜これ!
奪格(から)puellā
複数
主格(が) puellae
属格(の) puellārum
与格(に) puellīs
対格(を) puellās
奪格(から)puellīs
訳は「Puellam=少女を」です。
amōの活用形は?
【活用表】現在直接法能動相
第一活用 amō「愛する」
単数
1人称 amō (I love)☜これ!
2人称 amās(You love)
3人称 amat (He loves)
複数
1人称 amāmus (We love)
2人称 amātis (You all love)
3人称 amant (They love)
単数1人称なので、「amō=私は愛している」
あわせると、
Puellam amō.
【解答】
「私は少女を愛している。」
なんかちょっとアブナイ感じがしますが、練習問題ですから!
§41.練習問題5-3
問題
和訳です。
【問題文】
Puellae rosam dōnō.
【単語】
rosa, ae「ばら」※
dōnō「与える、捧げる」
※ラテン語の辞書では、名詞の横に単数属格形を書いて、名詞の活用の種類を表します。だから「rosa, ae」を見ると、名詞の第一活用だから、puellaと同じ活用なのだとわかるそうです、ふーん。
で、同じ第一活用の名詞であれば、同じ形で活用するので、puellaの活用を覚えれば、rosaの活用も自動でできちゃう、という理屈です。(とはいえpuellaだけでも覚えるのが大変なわけだけれども!)
ラテン語のrosaはもちろん、英語でroseになりました。
注意なのが発音で、英語ではroseロウズですが、ラテン語ではrosaロサ、です。ロザとzの音ではありません。
《おまけ情報》
ラテン語dōnōは、フランス語だとdonnerになって、英語のgiveみたいな「与える」という動詞です。
英語ではdonner「臓器などの提供者、ドナー」とか、donation「寄付、提供」という、難しめな単語になって「与える」的な意味で受け継がれています。英語にはラテン語がいっぱい!
解説&解答
ではpuellaeの活用形特定から。
【活用表】
puella「少女」
単数
主格(が) puella
属格(の) puellae ☜これ?
与格(に) puellae ☜これ?
対格(を) puellam
奪格(から)puellā
複数
主格(が) puellae ☜これ?
属格(の) puellārum
与格(に) puellīs
対格(を) puellās
奪格(から)puellīs
困りました、候補が複数あります。
単数属格「少女の」
単数与格「少女に」
複数主格「少女たちが」
いったんこの3つをキープしながら次へ。
rosamの活用形は、
【活用表】
puella「少女」
単数
主格(が) puella
属格(の) puellae
与格(に) puellae
対格(を) puellam ☜これ!
奪格(から)puellā
複数
主格(が) puellae
属格(の) puellārum
与格(に) puellīs
対格(を) puellās
奪格(から)puellīs
単数対格なので「rosam=ばらを」ですね。
dōnōは?
【活用表】現在直接法能動相
第一活用 amō「愛する」
単数
1人称 amō (I love)☜これ!
2人称 amās(You love)
3人称 amat (He loves)
複数
1人称 amāmus (We love)
2人称 amātis (You all love)
3人称 amant (They love)
単数1人称で「dōnō=私は与える」です。
ここまでを合わせると、
Puellae rosam dōnō.
「私はばらを贈る」は確定ですが、「少女の/に/が」が不確定で、これはもう文脈で判断です!
①「少女の、私はばらを贈る。」
↑うーん、なんか変?「”少女のばら”を私は贈る。」が排除できませんが、ひとまず△ということにしておきましょう。(間接目的を使わせる趣旨の問題なので、×でも良いのですが。)
②「少女に、私はばらを贈る。」
↑これなら良さそう。特に文句なし、〇です。
③「少女たちが、私はばらを贈る。」
↑主語が2つになってしまうので、×です。ちなみに「少女たちと私が、ばらを贈る」と主語を2つにするなら、「Puellae et ego rosam dōnant.」みたいにこねくり回す必要がありそうです。いずれにしても×で良いでしょう。
②を採用して、解答はこちら!↓
【解答】
Puellae rosam dōnō.
「私は少女にばらを贈る。」
§41.練習問題5-4
問題
和訳です。
【問題文】
Fōrmam puellae laudō.
【単語】
fōrma, ae, f「姿」
laudō「ほめる」
fōrma「姿」は英語ではform「形態」になってて、「形」の意味を残しています。
laudō「ほめる」は英語でもlaud「賞賛する」というちょっと難しい動詞です。
ラテン語の初級単語で、英語の上級語彙が学べるなんて最高ですね!
解説&解答
では、さくっと活用形を確認しましょう。
Fōrmamは、
【活用表】
puella「少女」
単数
主格(が) puella
属格(の) puellae
与格(に) puellae
対格(を) puellam ☜これ!
奪格(から)puellā
複数
主格(が) puellae
属格(の) puellārum
与格(に) puellīs
対格(を) puellās
奪格(から)puellīs
訳は「姿を」です。
puellaeは、
【活用表】
puella「少女」
単数
主格(が) puella
属格(の) puellae ☜これ?
与格(に) puellae ☜これ?
対格(を) puellam
奪格(から)puellā
複数
主格(が) puellae ☜これ?
属格(の) puellārum
与格(に) puellīs
対格(を) puellās
奪格(から)puellīs
また候補が三つありますので、保留。
laudōは、
【活用表】現在直接法能動相
第一活用 amō「愛する」
単数
1人称 amō (I love)☜これ!
2人称 amās(You love)
3人称 amat (He loves)
複数
1人称 amāmus (We love)
2人称 amātis (You all love)
3人称 amant (They love)
「私はほめる」です。
まとめると、
【候補】
①少女の姿を私はほめる。→〇
②少女に姿を私はほめる。→△
③少女が姿を私はほめる。→×主語が2つ
②は与格のこの用法が成り立つのか謎なので、今回は選択肢としては切っておきます。
では解答は、
【解答】
Fōrmam puellae laudō.
「私は少女の姿をほめる。」

お嬢ちゃん、かわいいねぇ、何年生?^^
・・・、やっぱりアブナイ気がしますが、練習問題だから!教材だから!!
§41.練習問題5-5
問題
和訳です。
【問題文】
Cum puellā ambulō.
【単語】
cum 「~と一緒に」[奪格支配]
ambulō「歩く」
ラテン語のambulō「歩く」は、動くこと→移動式の病院→英語のambulance「救急車」になりました!
救急車なのだから、*helping carとか言えば良いのに、わざわざ難しいラテン語を使ってるのが、英語のオシャレポイント、と私は思っています。
解説&解答
cum「~といっしょに」という前置詞が”奪格支配”らしいので、「~」に入るものが奪格になりそうです。なるんです!そう思ってください!!
英語のLook at him.と言う文では、atの後ろが、heの目的格himになっているので、英語の前置詞は”目的格支配”と言えます。ラテン語の前置詞は奪格が続くんだなぁくらいに、お気軽にとらえてください。
puellāをいちおう見ておくと、
【活用表】
puella「少女」
単数
主格(が) puella
属格(の) puellae
与格(に) puellae
対格(を) puellam
奪格(から)puellā ☜これ!
複数
主格(が) puellae
属格(の) puellārum
与格(に) puellīs
対格(を) puellās
奪格(から)puellīs
やっぱり単数で奪格なので、cum puellā「少女といっしょに」
ambulōの活用形を特定して、誰が歩いているのか確認しましょう。
【活用表】現在直接法能動相
第一活用 amō「愛する」
単数
1人称 amō (I love)☜これ!
2人称 amās(You love)
3人称 amat (He loves)
複数
1人称 amāmus (We love)
2人称 amātis (You all love)
3人称 amant (They love)
はい、語尾が単数1人称なので「私は歩く」です。
あわせると、
Cum puellā ambulō.
【解答】
「少女といっしょに、私は歩く。」
§42.練習問題6-1
問題
ラテン語に訳します。
【問題文】
少女たちが立って笑っている。
解説&解答
「少女たちが」が、複数主格なので、活用表から探します。
【活用表】
puella「少女」
単数
主格(が) puella
属格(の) puellae
与格(に) puellae
対格(を) puellam
奪格(から)puellā
複数
主格(が) puellae ☜これ!
属格(の) puellārum
与格(に) puellīs
対格(を) puellās
奪格(から)puellīs
puellaeという形を使います。
で、「少女たち」というのは「私(1人称)」でも「あなた(2人称)」でもないので、3人称です。活用表から、3人称複数を探します。stōは第一活用の動詞なので、「第一活用amō」の表から探します。
【活用表】現在直接法能動相
第一活用 amō「愛する」
単数
1人称 amō (I love)
2人称 amās(You love)
3人称 amat (He loves)
複数
1人称 amāmus (We love)
2人称 amātis (You all love)
3人称 amant (They love)☜これ!
stōを複数3人称に変形させて、stantです。
rīdeōは第二活用なので、「第二活用moneō」の表から探します。
【活用表】現在直接法能動相
第二活用 moneō「警告する」
単数
1人称 moneō (I warn)
2人称 monēs (You warn)
3人称 monet (He warn)
複数
1人称 monēmus (We warn)
2人称 monētis (You all warn)
3人称 monent (They warn)☜これ!
rīdeōを複数3人称に変形して、rīdentです。
【解答】
少女たちが立って笑っている。
Puellae stant et rīdent.
§42.練習問題5-2
問題
ラテン語に訳します。
【問題文】
少女たちを彼らは愛している。
解説&解答
一気に活用表を見ます。
少女たちを=複数対格↓
【活用表】
puella「少女」
単数
主格(が) puella
属格(の) puellae
与格(に) puellae
対格(を) puellam
奪格(から)puellā
複数
主格(が) puellae
属格(の) puellārum
与格(に) puellīs
対格(を) puellās ☜これ!
奪格(から)puellīs
彼らは愛している=複数3人称
【活用表】現在直接法能動相
第一活用 amō「愛する」
単数
1人称 amō (I love)
2人称 amās(You love)
3人称 amat (He loves)
複数
1人称 amāmus (We love)
2人称 amātis (You all love)
3人称 amant (They love)☜これ!
あわせれば正解です。
【解答】
少女たちを彼らは愛している。
Puellās amant.
§42.練習問題6-3
問題
ラテン語に訳します。
【問題文】
少女たちにばら[複数]を彼らは贈る。
解説&解答
少女たちに=複数与格
【活用表】
puella「少女」
単数
主格(が) puella
属格(の) puellae
与格(に) puellae
対格(を) puellam
奪格(から)puellā
複数
主格(が) puellae
属格(の) puellārum
与格(に) puellīs ☜これ!
対格(を) puellās
奪格(から)puellīs
ばら(複数)を=複数対格
【活用表】
puella「少女」
単数
主格(が) puella
属格(の) puellae
与格(に) puellae
対格(を) puellam
奪格(から)puellā
複数
主格(が) puellae
属格(の) puellārum
与格(に) puellīs
対格(を) puellās ☜これ!
奪格(から)puellīs
彼らは贈る=複数3人称
【活用表】現在直接法能動相
第一活用 amō「愛する」
単数
1人称 amō (I love)
2人称 amās(You love)
3人称 amat (He loves)
複数
1人称 amāmus (We love)
2人称 amātis (You all love)
3人称 amant (They love)☜これ!
【解答】
少女たちにばら[複数]を彼らは贈る。
puellīs rosās dōnant.
§42.練習問題6-3
問題
ラテン語に訳します。
【問題文】
少女たちの姿※を彼らはほめる。
※姿は単数にする、ひとまとめにして言う感じになる。
解説&解答
少女たちの=複数属格
【活用表】
puella「少女」
単数
主格(が) puella
属格(の) puellae
与格(に) puellae
対格(を) puellam
奪格(から)puellā
複数
主格(が) puellae
属格(の) puellārum ☜これ!
与格(に) puellīs
対格(を) puellās
奪格(から)puellīs
姿を=単数対格
【活用表】
puella「少女」
単数
主格(が) puella
属格(の) puellae
与格(に) puellae
対格(を) puellam ☜これ!
奪格(から)puellā
複数
主格(が) puellae
属格(の) puellārum
与格(に) puellīs
対格(を) puellās
奪格(から)puellīs
彼らはほめる=複数3人称
【活用表】現在直接法能動相
第一活用 amō「愛する」
単数
1人称 amō (I love)
2人称 amās(You love)
3人称 amat (He loves)
複数
1人称 amāmus (We love)
2人称 amātis (You all love)
3人称 amant (They love)☜これ!
→laudant
【解答】
少女たちの姿を彼らはほめる。
puellārum formam laudant.
§42.練習問題6-5
問題
ラテン語に訳します。
【問題文】
少女たちと一緒に彼らは歩く。
解説&解答
彼女たちといっしょに=cum+複数奪格
【活用表】
puella「少女」
単数
主格(が) puella
属格(の) puellae
与格(に) puellae
対格(を) puellam
奪格(から)puellā
複数
主格(が) puellae
属格(の) puellārum
与格(に) puellīs
対格(を) puellās
奪格(から)puellīs ☜これ!
彼らは歩く=複数3人称
【活用表】現在直接法能動相
第一活用 amō「愛する」
単数
1人称 amō (I love)
2人称 amās(You love)
3人称 amat (He loves)
複数
1人称 amāmus (We love)
2人称 amātis (You all love)
3人称 amant (They love)☜これ!
【解答】
少女たちと一緒に彼らは歩く。
Cum puellīs ambulant.
なお、ラテン語には英語のaとかtheという冠詞はありません、やったー!
今回は以上です。